膀胱・子宮・直腸などが腟から脱出する状態を骨盤臓器脱と呼びます。子宮摘出後でも腟断端が下がることがあります。出産により支持組織が損傷されたり、加齢や体重増加、便秘、慢性的な腹圧上昇などで骨盤底の筋肉(骨盤底筋)が緩んだりすることが原因と考えられています。米国では以前は約1割の女性が骨盤臓器脱や尿失禁で治療を受けると言われていましたが、近年は高齢化に伴い約2割の女性が治療を受けると報告されるほど頻度の高い疾患です。
骨盤臓器脱はまれな病気ではなく、特に分娩をされた方では軽度の下垂がみられることは普通にあり、腟外まで脱出していなければほとんど症状がありません。脱出した臓器を触れたため受診される患者さんが多く、尿が出ていれば生命にかかわる病気ではないため経過観察も可能ですが、自分で触れるぐらいに下垂してきた場合には生活の質を落としますので治療をお勧めします。
腟内にペッサリーを挿入したりサポート下着を着用(当院では行っていません)したりすることで症状が改善することもあります。一般的には骨盤底筋体操が有効と言われていますが、個人的には脱出をした患者さんでは改善は困難と考えます。
骨盤臓器脱の手術にはメッシュを用いる手術とメッシュを用いない手術があります。
メッシュを用いない術式では再発のリスクが高いため、メッシュを用いる術式が考案されましたが、メッシュ特有の合併症が指摘されています。
多数の術式があり、ここでは代表的な術式を示します。それぞれの術式に長所短所がありますが、いずれの術式でも再発率が高いことが問題です。
①腟式子宮摘除術:腟から子宮を摘出する方法です。子宮脱には有効ですが、膀胱瘤や直腸瘤などの腟壁の下垂には効果が少なく、また手術後に腟が再下垂(腟断端脱)することがあります。
②腟壁形成術:腟壁を縫い縮める術式です。再発率が高いと報告されています。
③腟断端挙上術:膣の断端を骨盤内の丈夫な組織に縫合・固定する術式です。 固定部位以外の組織に余分な力がかかるため再発のリスクがあります。
④膣閉鎖術:腟管を閉鎖する術式です。メッシュを用いなくても比較的再発が少ない術式ですが性交渉ができなくなり、子宮がん検診も困難になります。
腹式メッシュ手術:仙骨腟固定術(ASC、LSC, RSC)
下垂している子宮や腟壁を、腹式にメッシュを用いて仙骨に固定します。
性交渉が重要な症例ではよい適応になりますが、施設によって手術の適応は様々です。
開腹手術で行う場合をASC、腹腔鏡を用いる場合をLSC、ロボットを用いる場合はRSCと呼びますが、当院では行っておりません。
腟式メッシュ(TVM)は、経腟的にメッシュを腟壁の裏面に挿入し、骨盤臓器をハンモック状に支える手術方法です。現在日本で使用されているメッシュはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン:日本製)です。
同じ素材からできたメッシュは外科での鼡径ヘルニアや腹壁ヘルニアの治療に長く使用され安全性が確認されています。
メッシュの露出:メッシュの一部が腟壁から出てくること メッシュの感染:メッシュが感染すること 骨盤痛・性交痛:海外では骨盤痛や性交痛の報告があります。
これらの合併症から、海外では経腟的にメッシュの使用を制限したり禁止したりする国があります。海外の流れを受け日本でも経腟メッシュ手術を制限する流れがありますが、海外に比べ日本での合併症頻度が少ないため、経験をつんだ術者がメッシュの方が有用と判断した場合には経腟メッシュの使用は制限されていません。